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【小説】サカマトリョシカ 2-2

  • 執筆者の写真: ニョロ太
    ニョロ太
  • 2020年11月8日
  • 読了時間: 15分
これは、ハチさんの楽曲『マトリョシカ』から構想を得た物語です
しかし、二次創作と言えるほど楽曲に順守していません
ほとんど別の物語です
ご理解の上、ご覧ください。



ーーーーーーーーーー






2-2.


「おまたせしました。ご注文は?」

「……は?」

 中性色が眉をひそめる。

 カミキも丸くした目をぱちくりさせる。

 店員さんは、聞き取れなかったと思ったのか、もう一度

「ご注文は?」

 今度ははっきりとした声で。

「ええと、じゃあ」

 カミキはメニューのさっきと同じページを開いて、

「この和風ハンバーグをお願いします」

「和風ハンバーグ、おひとつ。

セットでライスとスープがありますがお付けしますか?」

「はい」

「ライスは中でよろしいですね」

「はい」

「スープはコーンとオニオンがありますが」

「えっと、オニオンで」

「かしこまりましたー」

 店員さんは慣れた手つきで、注文をメモのような機械に入力する。

「そちらは?」

 店員さんは中性色の方を見る。

 中性色は「さっき言ったじゃん」と低い声でぶつぶつ言いながら、

「ドリンクバーと、旬のフルーツ抹茶パフェ。チョコレートソースと、フルーツソースと、抹茶ソースと、イチゴムース追加、生クリーム増し増しで、ウエハース無し」

 店員は先ほどと同じトーンで「かしこまりましたー」と唱える。

「じゃあ、ご注文繰り返します。

 和風ハンバーグ。ライス、中、オニオンスープのセットがおひとつ。

旬のフルーツパフェの抹茶。チョコレートソース、フルーツソース、抹茶ソース、イチゴムース追加、生クリーム増量、がおひとつ」

「だから、ウエハース無しだって!」

 店員さんは頭をポリポリ掻く。

「あー、はい。ウエハース無し。

 で、ドリンクバーでよろしいですか」

「はい」

「かしこまりました。

 ドリンクバーは、……説明しなくていいか」

 店員さんはテーブルの上のグラスを見てつぶやく。

 中性色の細い眉がピクリと反応する。

「今日は特別だけど、本当はグラスは一人一つまでだからね。

それから、今度からは注文してから取りに行ってね」

 店員さんは言い聞かせるような口調でカミキと中性色に念を押した。

 そうしたら、とうとう我慢の限界が来たのか、中性色が店員さんにかみついた。

「は? ボク、ちゃんと注文しましたけど?」

中性色のいきなりの態度にカミキはぎょっとする。

「え、そうだっけ?」

「そうだよ。

 ね、カミキ」

 反射で思わずうなずいてしまった。

「ホラ!」と中性色が言うと、店員さんは空中に視線をさまよわせながら、唸る。

「記憶に無いんだけどなぁ」

「さっきまで寝てたからでしょ! 寝ぼけてインネンつけるのやめてくれる?」

 なんで寝ていたのがわかったんだと驚いた表情をする店員さん。

 中性色が今にも「バカにしてんの!?」と言ってつかみかかりそうで、カミキはずっとハラハラしていた。

店員さんはしばらく思い出そうと頭を掻きながら唸っていたが、ふと

「そもそも、俺、いつこの子たちを席に通したっけ?」

店員さんがつぶやいた内容に、得意げだった中性色が押し黙る。

 人はいないと決め込んで、勝手に入ったのだ。そのことが店員さんの記憶にあるはずは、もちろん無い。

 それでも店員さんは軽く頭を下げて、

「申し訳ありませんでした。

 料理の方もすぐに用意します」

と言って、店の奥に戻っていった。

「とりあえず」と語頭につきそうな言い方だったが、中性色もこれ以上は噛みつかなかった。

店員さんが去った後、中性色があからさまに悔しがる。足をバタバタならしながら、「なにさ、なにさ!」と繰り返している。

「何なのアイツ! 思い出さなきゃいけないことは思い出さないクセに、思い出さなくていいことは思い出すの! 追い詰めるなんてヒキョーだ!」

 カッカする中性色に、カミキは相槌をうちながら、落ち着かせるようとする。

「寝ぼけているからって、ついさっきやり取りをしたことを忘れちゃうものなのかしら?」

 カミキはそれに違和感を持っていた。

(ほんの数分前のことを忘れるのは、変じゃないかしら。本当に思い出せないだけなのかな。)

 それに対して、中性色はフン、と不機嫌そうに鼻を鳴らす。

「忘れてんでしょ。アイツ頭悪そうだし。寝ぐせひどいし。頭回ってなさそうだし。

逆に、ホントは思い出してるけど、ボクに嫌がらせしたかったとか? もしそうだとしたら、ホント性格悪い!」

ますます口が悪くなる中性色。

(そうなのかしら。悪い人には見えなかった)

 カミキはまだ引っかかったままだった。

口に出すと、中性色の機嫌がさらに悪くなりそうだから、言わないけど。

それから中性色は、「髪染めてるからフリョー」とか、「二重注文になってたら、おごらせる」とか思いついた先から、悪態をついた。最後の方は「アイツの母ちゃんでべそ」とか、何も関係がないものまで飛び出した。カミキは何とか落ち着かせようと、てきとうに話を合わせる。

「てゆーか、さっきから思ってたけど、カミキ、お金あるの?」

「お金? 無いよ。手ぶらだもの」

「じゃあ、注文したハンバーグのお金どうする気? ボク絶対払わないからね」

 中性色はじとっとした目でカミキをにらむ。

(しまった。促されたから、注文してしまったけれど、どうしよう)

 おごってほしいといえるはずもなく。

 そのうえ、怒りの矛先が自分にシフトチェンジしそうな状況に焦るカミキ。

 だが、中性色の怒りは相変わらず店員さんに向けられたまま。

「もうアイツにお金セーキューしよ。迷惑料のセーキュー!」

 そうしよう、そうしよう。と、勝手に、店員さんにおごらせる算段をたてる中性色。

自分に矛先が向かなかったことに、カミキはひとまずほっとした。

「てか、アイツ、モップ取りに行くの遅くない? 床のジュース乾くんだけど」

 マシンガントークの合間に少しずつ口をつけていたドリンクが、気づけば半分以下になっていた。

 カミキは時間を確認しようと、店内の時計を見るが、針は四時。店員さんが去ってから秒針が何回回ったかなんて見ていないから、結局何分経ったか、分からなかった。

「また寝てんの? ほんっとありえないんだけど!」

 中性色が力任せに呼出ボタンをならす。もともとの力が弱いから、ぺちんという音がする。

 なかなか店員さんはやってこない。

 中性色はむっとして、ボタンを連打する。

 ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン

「う、うるさい……」

 カミキがつぶやくのも、チャイムの音にかき消される。

 しばらくした後、店員さんが頭を掻きながら店の奥から出てきた。目は眠たそうにしょぼしょぼしている。

 口をパクパクさせて、何かつぶやいている。

「は~い、はい、聞こえてますよ」

 みたいなことを言っているみたいだけど、寝起きで声にハリが無いからか、チャイムの音に完全にかき消されている。

 途中、床の惨事を見て、店員さんはちょっと顔をしかめて、何かつぶやいた。

「後でモップ持ってこないと……」

 聞こえていないが、そう言ったのだと思う。

 頭を掻いて、ため息をつく代わりに、あくびをする。

 店員さんは、床の片づけを一旦放置することにしたのだろう。

 なおもチャイムを鳴らし続ける中性色のもとに来て、また何か言った。

「おまたせしました。ご注文は?」


「え?」

 漏れたカミキの声も、チャイムの音でかき消される。

 聞こえなかったから聞き返したわけじゃない。気が付いてしまったのだ。

多少の差はあれど、さっきから店員さんの言うことが、動きが、ほとんど同じということを。

 店員さんはチャイムを鳴らし続ける、本当にまだ鳴らし続けている中性色を困ったように見て、頭を掻く。中性色ははなから店員さんの声を聞く気が無いらしい。

 中性色は、しばらく頑張ってボタンを連打していたが、疲れてパタッとやめた。息が上がって、肩で息をしている。

(そんな全力でしなくったってよかったんじゃないかな……)

 そこでようやく店員さんの姿を見る。

「遅い!!」

 ビシッと萌袖を突き付ける。

 店員さんが「申し訳ありません」と言う。

 しかし「も」と同時に、中性色がチャイムを押したから、かき消される。

「いつになったらその床掃除するの!?

 てゆーか、まだパフェ出来てないの!? ほかに客居ないんだからすぐ出来るでしょ!? どーなってんのこの店!」

 中性色がまくしたてる。

 店員さんはめんどくさそうな顔を隠さずに聞いていたが、後半になると、首をかしげた。

 多分、(注文を取ったっけ?)と思っていたのだろう。

 それから、中性色はカミキに言っていた内容をそっくりそのまま店員さんにまくしたてる。店員さんはてきとうに相槌をうっている。

 しゃべり続けて足りなくなった酸素を補給するために、中性色の言葉が一瞬止まるタイミング。

 そこを見逃さずに、店員さんが言葉をはさむ。

「申し訳ありませんでした。

 床の掃除を行って、お料理もすぐにご用意します」

では、失礼。と軽く頭を下げて、逃げるように背を向ける店員さん。

「とりあえず」と語頭につきそうな言い方だったが、中性色が続ける隙も与えない。

 ぼんやりしてそうなのに、そういうところだけ目ざといのがさすがだ。

「あ、ちょっと待って!」

 と声を上げたのは、中性色だけではなく、カミキもだった。

 しかし店員さんは聞こえなかったのか、“ふり”なのか、そのまま振り返らずに足早に去っていった。

「くそっ、逃げられた!」

 悔しそうに歯ぎしりをする中性色。

 カミキは驚きで、相槌も打てず。しかし

「何、その相槌」

 と中性色にとがめられたから、無意識のうちに「ええそうね」とか何とか云っていたのだろう。

「あのね中性色、分かったの。繰り返しているんだわ!

 時間が止まっているんじゃなくって、きっと進まずに繰り返しているのよ!」

 テーブルも乗り越えそうな勢いで身を乗りだすカミキ。

 中性色は体をそらしてそれを回避する。

「またそんなこと言ってんの?」

 中性色は、ふんと鼻を鳴らす。

 だけど、今度はカミキの勢いは止まらない。

「理由があるの。

 店員さんの動きが、毎回同じなのよ。奥から出てきたときに、眠たそうに眼をしょぼしょぼさせるところとか、頭を掻いて、ため息の代わりにあくびをするところとか。それに、注文を取りに来た時の第一声も同じはずよ」

 中性色が苦笑交じりに返す。

「そんなとこ、よく見てんね。

 もしかして、あーいうのが好みなの?」

「え」

 カミキは面食らう。

(店員さんみたいな人が、好み……なのかな?)

 カミキの脳内に、気だるげな態度の店員さんが浮かんでは消える。

 そっちに頭がいっぱいになって、身を乗り出す勢いはどこかに行ってしまった。

「で? 続きは?」

 中性色が促すと、カミキは顔に手を当てて、もじもじする。

「え、ええと。好みかどうかは分からないわ。髪を染めているのは、個性的だと思うけど……。ああでも、アンニュイなまつ毛が長くて、中性的で、きれいな顔をしているわよね」

「その話じゃないよ!」

「ええっ」

 中性色に怒られて、カミキは驚く。そりゃ当然怒る。

「繰り返してるって話の続きだよ!」

「……ああ!」

 カミキは、ぽん、と手を打つ。

「そう、繰り返してるの。毎回、シチュエーションが少しずつ違ったから気づきにくかったけど。

 だから、時間が進んでいないのよ。

それに、繰り返しているから、店員さんは何度も注文を聞いてきたのよ」

 ドリンクをストローでかき混ぜながら、カミキの話を聞く中性色。

「ふーん。なるほどね。

……。で?」

「え?」

「それが分かったから、どうしたいの?」

 先を促す中性色の言葉に、カミキは目をぱちくりさせる。

「それだけよ。店員さんの行動の理由が分かったの」

 カミキは声を弾ませる。

 カミキの言葉に、中性色は目を丸くする。

「それだけ!? 変だとは思わないの!?」

「え? 元からこうなんでしょ?」

 中性色に責められて、カミキは困惑する。

「そんなわけないでしょ! もとからこんなんだとしたら、注文はおろか、日常生活もできないじゃん!」

 カミキが「確かに!」と手をポンと打つと、中性色は「おバカ!」と叫ぶ。

「アイツが、失礼な態度をとったのは、繰り返してるからってことにしようか。

だったら、ボクたちが繰り返していない理由は?」

中性色は腕と足を組んで、ふんぞり返る。

「それは……。そうよね。主人公じゃあるまいし……」

 カミキはここまで言って、はっと中性色の顔を見る。

 いきなり見られて怪訝そうな顔をするが、中性色もはっとした顔になる。

 どちらともなく、考えをおそるおそる声に出す。

「私たちが主人公なのでは……?」

「……ボク、主人公なのかな……?」

 中性色のほおが緩み、口の端がみるみる吊り上がっていく。

「えー! マサカマサカ!! そんなわけないでしょ!

 でもねぇ。でもねぇ! こんな状態だしぃ! ジッサイ!?」

 中性色の舌が回る回る。ついでに萌袖も回る。

 カミキもニヤニヤする口元を両手で押さえている。

 各々でひとしきり騒いでは、顔を見合わせると馬鹿丸出しでまたにやける。

 「よし!」と言って、中性色が座席の上に立った。靴のままで。

左手を腰に当て、右手を突き上げて高らかに宣言する。

「時間のループを解決して、ボクが世界を救う! なんたって、主人公だからね!」

「おー!」

決めポーズをする中性色に、カミキは拍手を送った。

「じゃあ解決するためには、何をするの?」

 着席した中性色に、カミキが聞く。

「……教えない!」

 中性色はふいと目をそらす。

 カミキは「そんなぁ」と言って、中性色にすがる。

「ボ、ボクは答えが分かってるもん。カミキも自分で考えなよ!」

 実際は、中性色にもわかっていなくて、強がっているのだろう。

 カミキは、うーん、と唸る。

「やっぱり、元凶を倒すとかかしら? それとも、魔法陣や封印を解く?

 他には……、世界の時を進める時計を見つけるとか」

「それだ!」

 カミキが予想(想像)を口にしていると、中性色が声を上げた。

「これなの?」

「……違う。別にカミキの考えに便乗したわけじゃないから。

 ボクが考えた答えと、近かったから、おなさけで正解にしてあげただけだから」

 中性色はつっかえつっかえ返す。

「じゃあ、正解は?」

「……。

まあ、とりあえず、カミキの答えを実践してみようじゃん」

 首をかしげるカミキに、「ね!」と念押しする。

 カミキは曖昧に返事をする。

「じゃ、まずさっそく、ココの時計を動かそう!」

「え、このお店の時計?」

 カミキは、石造りの大きな時計台を想像していた。世界を見渡せるほど背が高く、全身で掴まれるくらい太い針と、体よりも大きな数字が書かれた時計盤。その裏に、重々しい歯車の数々ががっちりとかみ合って鎮座している。

 もしくは、金色の懐中時計。装飾はほとんどされていない、シンプルな見た目。人の手を渡り歩き、表面はなめらかな光沢がある。年季があるようだけど、不思議と決して薄汚れておらず、故障もない。

 そんな、見るからに特別な時計。

 それに対して。

 想像していた時計と、目の前の時計とを見比べる。

 ファミレスの柱にくっついている、プラスチック枠組みと細い針の時計。

「……。」

 無意識に疑心が漏れ出ていたのか、中性色がごまかすように、

「カミキが言ったんでしょ! 時計を動かすって!」

「う、うん……」

 中性色にせかされるまま、カミキは靴を脱いで、テーブルの上に立ち、時計を外そうとする。

 時計の針を直接進めて、元の位置に戻す。というわけだ。

しかし、時計が壁から外れない。

 よく見ると、壁に埋め込まれているらしく、淵に手をかけて引っ張っても、びくともしない。

「中性色、この時計外れないよ」

「は!?」

 想定外だったらしく、中性色は萌袖を振り回しておろおろする。

「な、何でもいいから、針を進めて!」

「なんでもいいって……」

 むき出しの文字盤を前に、カミキもおろおろする。

(ええい、ままよ!)

 カミキは分針をつかんで、無理やり回す。かちり、と音を立てて、針が動いた。




 瞬間、世界が真っ黄色になった。

「わっ」

 中性色の声。

 反射的に目をつぶる。

 真っ黄色の世界と時計の真っ黒な影が、瞼の裏に焼き付いている。

 くらくらする。倒れる前にうずくまった。

 数秒。何か起こる気配はない。

 ゆっくりと目を開く。

 辺りはもう黄色ではなかった。

(まだ目がチカチカする……)

 カミキは両目をこする。

 痛みはないが、しばらく目の前は黄色と黒に点滅していた。

 ここでやっと、カミキは中性色の存在を思い出す。

 中性色が床にひっくり返っている。驚いたのか、バランスを崩したのか。目を固く閉じて、微動だにしない。

「ち、中性色、大丈夫?」

 中性色が薄目を開ける。目だけ動かして周囲を確認した後、目をこすりながら起き上がった。

「な、なに今の……」

「さあ……」

 周囲を確認しても、光源らしきものは見当たらない。

「あ、時計。時計はどうなったのかしら?」

 見上げると、時計は4時ちょうどを指していた。秒針がチッチッと音を立てて進んでいる。

 もうすぐ、針が真上を指す。

 二人とも自然と息をのんで、秒針が進むのを見守る。

 秒針が真上を指した。

 短針と長針は4時1分を指した。

 秒針は回り続ける。

 二人は顔を見合わせて、両手でハイタッチする。

 と見せかけて、中性色は萌袖からスマホを取り出す。

 カミキのハイタッチは空振り。

「どう? 時間は進んでいる?」

 画面を見ていた中性色はにやっと笑う。

「ほら」

 中性色がカミキに画面を見せる。[16:01]が、すぐに[16:02]に切り替わる。

 すると、店の奥から物音がした。店員さんがモップとバケツを持って現れる。

 店員さんは、カミキたちをちらっと見る。机の上でうずくまっているカミキ。

 店員さんはすぐに目をそらす。俺は何も見てません。と顔に書かれている。

 しかし、浮かれていて顔の字を読めない中性色が、店員さんに絡みに行く。

「店員~。いま、何時何分⁇」

 店員さんは清掃の手を止めて、頭を掻きながら、店内の時計を見る。

「えーと、4時3分ですね」

「じゃなくて~! 店員もスマホ持ってるでしょ? その時間だよ」

 やれやれ。と言いたげな中性色。

 やれやれ。と言いたげな店員さんは、ポケットから自身のスマホを取り出す。

「えーと、4時3分ですね」

 そっくりそのままの回答に、中性色は満足げな表情になる。

「ちなみに、ボクたちが注文したの、覚えてる?」

「和風ハンバーグと、旬のフルーツパフェの抹茶。ウエハース無しですよね。

 ……あれ?」

 店員さんは首をかしげる。

「なんで俺、覚えてるんだ?」

 中性色がニヤニヤ笑う。

「まあ、コンランするのも無理はないよ。でも、もう大丈夫だよ。ボクが世界を救ってあげたからね!」

「は?」

 店員さんは眉をひそめる。

「時計の針を動かしたのは、私よ、中性色」

 机から降りたカミキが、中性色のもとに駆け寄って抗議する。

「指示したのはボクでしょ」

「時間が繰り返してるってことを気が付いたのは私よ」

「それくらいボクだって気づいてたし!」

 店員さんは「あ、そっすか」とつぶやいて、そっと距離を取る。

「あ、そうだ。追加で注文していい? ティラミスとジェラート」

 それを逃がさない中性色。

「それなら私も。ええとそうね」

 席について、メニューを開くカミキ。

「プリンと、チーズケーキお願いしてもいいですか」

「あと、パンケーキとフォンダンショコラ」

 中性色が、メニューをのぞき込んで、さらに注文する。

「そんなに食べきれるの?」

「なんだっていいじゃん! ボクたち世界を救ったんだから!」

「それもそうね!」

 ハッハッハ!と笑うカミキと中性色を見て、店員さんはため息をついて、頭を掻いた。





「ボクは払わないから」

 レジを前に、中性色はむすっとした顔で腕を組んでいた。

 さっきの豪遊で、カミキが注文した分は払わない。カミキが払え。とのことだ。

「今手持ちがなくって……」

「知らないよそんなの。ボク、言ってたよね?」

「とりあえず、お支払いしていただいてもいいですか」

 の繰り返し。

 店員さんはめんどくささを通り越して、もはや飽きている。二人の会話の切れ目に「お支払いしていただいて」とロボットのように挟む。

「ちょっと店員は黙ってて」

「……」

 店員さんは足を開いて、長時間立っていても楽な姿勢になる。

 中性色がため息をつく。

「もう、それなら、皿洗いでもしたらいいんじゃない?」

「な、なるほど!

 店員さん、それってできるんですか?」

「え?」

 ぼーっとレジを眺めていた店員さんが、はっと顔を上げる。話は耳に入っていなかったようだ。

「代金の代わりに、皿洗いとか、働いてお支払いすることってできますか」

「いやー……。そういうのは、店長に聞いてみないと分かんないっすね」

「じゃあ、テンチョーに聞いて来てよ」

「今店長はいないです」

 中性色は「はあ?」と顔をしかめる。

「なんでいないの?」

「なんでって言われても……」

 今の時刻は16時。つまり午後4時。

だけど店員さんは

「まだ早朝だから、寝てるんじゃないっすかね」





「早朝!?」





 世界は回り始めただけ。まだ、元に戻ったりなんてしていない。





 一旦ここまで。

 話疲れちゃった。

楽しかったからつい、あれもこれもと話したくなって。

ああ、まだまだ物語は続くから、安心して。……逆に、嫌かな? 年寄りの話は長くてつまらないっていうし。

それでも、最後まで付き合ってもらうよ。

それじゃあまた。


つづく



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ここまでご覧いただき、ありがとうございました。

良ければ次回も読んでいただけると嬉しいです。

それでは。


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